筆界特定制度 (資格者代理人編)

「筆界特定制度」について、より専門的に学びたい方のために解説します。

こちらのページは、「研修材料として使いたい」という声にお応えするために、専門家の方に向けた内容で作成いたしました。筆界特定制度での名称(定義)の確認や、申請から特定までの流れを条文を踏まえてご説明いたします。すべて当事務所で作成しているため、説明内容や使用用語も拙い限りですが、ご活用いただければ幸いです。また、随時修正に努めてまいりますので、ご覧いただいた専門家の方は、忌憚のないご意見をお寄せください。

制度上の名称と定義(法123条)

関係人

「筆界」「対象土地」などの制度上の名称は、法123条およびその他で定義されています。その中で、定義上よく勘違いされているのは、法133条の「関係人」です。図のC・D・Eは「関係人」です。そして、申請地が共有土地である場合、申請人以外の土地共有者、Bも「関係人」になります。実務では、「関係人」を特に明確にするために、下記のように表現します。また、制度上何の名称も付けられていないF・G・Hは、「関係人」ではありません。

<関係人の名称>

  • ・対象乙地関係人(C)
  • ・関係土地関係人(D、E)
  • ・申請地共有者関係人(B)

参考人

制度上、「参考人」という名称が法140条2項にあります。「参考人」は、筆界特定登記官が適当とする者が任命され、知っている事実を陳述します。制度がイメージする「参考人」は、通達115によると下記の存在のようです。

<通達115における「参考人」>

  • ・過去の対象土地の所有者
  • ・対象土地周辺の開発行為を行った者
  • ・筆界特定登記官の命を受けて対象土地の鑑定を行った者

制度では、F・G・Hのような立場の者が「参考人」となる予定はしていないようです。

制度上の名称と定義(法123条)

申請要件

申請要件

用語の定義以外にも、申請要件を勘違いされている方は少なくありません。大阪をはじめとする近畿地方は、地図(公図)の整備が遅れた地域です。そのため、隣接地との筆界問題と同時に地図の混乱問題を同時に抱えるケースも多いのが実情です。しかし、平成17年12月6日民事局長通達3(以下、通達)では下記のようになっています。

『地図又は地図に準ずる図面によれば申請に係る1筆の土地と他の土地とが相互に隣接しており、かつ、現地における土地の配列および区画又は形状がおおむね地図又は地図に準ずる図面の表示と一致していると認められるときは、当該各土地を対象土地として取り扱って差し支えない』。

つまり、筆界特定申請の要件では、「申請地と相手方(※1)の土地は、公図でも現地でも隣接していなければならない」ことになっているのです。

※1 この制度では、当事者対立構造を避けるためか、「相手方」という表現はありません。そのため、制度で使用されている言葉で表現するのなら「対象土地間の筆界は現地および公図上接していなければならない」が適切でしょう。しかし、このページでは説明上のわかりやすさを優先するために、この後の説明でも「相手方」という表現を使用する場合があります。あらかじめご了承ください。

隣接しない土地の筆界特定の申請

公図(地図に準ずる図面)に何らかの不備があり、土地の配列および区画または形状が一致せず、対象甲地と対象乙地が公図上隣接しない場合、筆界特定の申請に先立って地図訂正の手続きをしなければなりません。しかし、地図の訂正をするとなると、その手続き上、筆界特定を予定する対象乙地所有者(相手方)の承諾が必要です。地図の訂正においても筆界の争いが起こることは避けられないため、結局、筆界特定の申請ができないことになってしまいます。

条文による筆界特定の流れ

イラストをモデルとして、筆界特定の申請から特定までの過程を、条文を踏まえて説明いたします。

(1) 筆界特定の申請(法131条)
(2) 申請人から意見・資料提出(法139条)
(3) 対象乙地関係人から意見・資料提出(法139条)
(4) 制度側の立ち入り検査(法137条)
(5) 意見聴取(法140)
(6) 筆界特定(法143)
手続き費用とは

(1)筆界特定の申請(法131条)

通常であれば、申請の際に、申請人側の意見や資料を申請書に添付する場合が多いでしょう。しかし、ここでのモデルケースでは、(1)筆界特定の申請の後に(2)申請人の意見・資料が提出されたとして説明します。

筆界特定申請は、筆界特定登記官が受理します。申請を受けると、当該筆界特定の申請があった旨を公告し、下図のBを含む関係人に通知します。通知は通達32号様式で行われますが、大変仰々しい書面に受け取った人が驚く事例もあるようです。また、相手方が立会い協議に極めて非協力的でやむなく筆界特定の申請におよんだのに、法務局という国家機関から届いた通達32号様式を目にして態度が一変し、「立会い拒否なんてしていません」という例は、珍しくありません。この場合、「立会いに非協力」を理由に申請しているのにも関わらず、関係人(相手方)は立会いの協力を表明しているとなれば申請の理由が成り立たないため、法132条の却下事由に該当してしまいます。このような事態を避けるためにも、申請前に「あなたが立会いに非協力的なので、法務局に筆界特定の申請をします。近日中に法務局からあなたに書類が送られてきます」と関係人に通告しておくべきでしょう。

(1)筆界特定の申請(法131条)

法務局から関係人に対する通知には、以下のものがあります。

  • ・通達32号様式
  • ・申請書の写し
  • ・申請時に図面が添付されている場合にはその図面

これらを郵便や信書便などの適宜の方法により、原則として登記記録に記載された住所に通知します(通達138、139)。資格者代理人が留意すべきなのは、関係人の現住所(連絡先)を調査済みの場合、筆界特定申請情報として登記官室に積極的に提供することでしょう。申請を受理した筆界特定登記官は、当該案件を担当する筆界調査委員を指定します(法134条)。

(2)申請人から意見・資料提出(法139条)
(2)申請人から意見・資料提出(法139条)

申請後に、申請人から特定を求める筆界の意見・資料が提出されます。

(3)対象乙地関係人から意見・資料提出(法139条)
(3)対象乙地関係人から意見・資料提出(法139条)

【通達105】申請人または関係人から意見または資料の提出があった場合には、原則として、その旨を対象土地の所有権登記名義人等(当該意見または資料を提出した者を除く)に適宜の方法により通知するものとする。

申請人が提出した筆界特定の意見・資料を見て、対象土地関係人・Cが反論の意見・資料を提出しました。申請があった旨の公告および通知の手続きとは違い、申請人・Aや関係人・Cから意見・資料が提出されたことは公告されません。相手方に意見・資料が提出された事実を通知するのみです。そして、関係土地関係人であるE・Dは、当該筆界特定において意見や資料を提出できる立場ではあるものの、対象土地所有者から意見または資料が提出された際の通知はありません(注2)。

【規則228条1項】
調書または資料の閲覧は、筆界特定登記官またはその指定する職員の面前でさせるものとする。

意見または資料が提出された旨の通知を受けた者は、筆界特定登記官に出向いて閲覧申請書を提出すれば、その意見または資料を閲覧できます(規則218条)。ただし、写しを請求する規程はありません(3)。また、この制度では、意見または資料を制度上3部以上提出することになっています
(規則220条)。そのうち1部は、当該対象土地を管轄する出張所に回っているのですが、出張所で意見または資料を閲覧することはできません
4)。

2 この制度で最終的に特定される筆界は、現地における筆界の位置です。図で言えば、イ点ロ点を結ぶ直線です。イ点ロ点の特定は、当然関係土地に影響を与えます。それにも関わらず、AおよびCから意見や資料が提出されても、DEに通知すらない現制度には疑問を感じます。

そのためか、運用のケースでは、筆界調査委員や担当職員の判断でDEにも通知することがあるようです。また、実務に携わる者の立場から言うと、イ点の特定はHにも影響を与えます。しかし、Hには、筆界特定の申請があった通知も、AおよびCから意見・資料が提出された通知も一切ありません。そして、現制度では、D・Eは筆界特定登記官に意見・資料を提出することができますが、Hは意見・資料の提出は認められていません。このようにHを蚊帳の外状態にしてしまう制度の在り方にも疑問を感じます。

(3)対象乙地関係人から意見・資料提出(法139条)

3 例えば、Aが筆界特定登記官に意見・資料を提出した場合、Cは「筆界特定手続記録閲覧申請書」を提出すれば閲覧できます。この意見・資料の閲覧に関わる手数料は不要です。しかし、制度上できるのは「閲覧」のみで、写しを請求することはできません。筆界を特定する制度で提出される資料なので、必ず図面や写真もあるはずです。図面や写真を含む資料を「見るだけ」しか許さないのは、制度としてどうなのでしょうか。当事者対立構造を取らないという考え方は理解できます。それでも、相手方の主張する意見を正確に把握し、それに反論する機会を保証する制度だとするのなら、写しの交付手続きが必要ではないかと考えます。

4 当事務所の所属会は大阪会です。比較的面積の狭い大阪であっても、野瀬町あるいは岬町から筆界特定登記官室がある大阪市中央区に出向くと時間が掛かります。他府県になると、長時間列車や船に乗っていかなければならない地域もあります。この制度では、提出された意見・資料の1部は対象土地を管轄する出張所に送付されているのですから、出張所での閲覧を認めてもいいように思います。

(4)制度側の立ち入り検査(法137条)

通達によると、現地調査(測量)には、「事前準備調査」「現況等把握調査」「特定調査」の3種類があります。「事前準備調査」とは、法務局内などでの資料の調査(内業)を意味します。「現況等把握調査」と「特定調査」の具体的な手続きに関しては、通達89~102の通りです。ここでは、調査の際の現地の立ち入りについて、申請人・関係人・占有者への通知に絞って記載します。

(4)制度側の立ち入り検査(法137条)

【法136条】筆界調査委員は、対象土地の測量又は実地調査を行うときは、あらかじめ、その旨並びにその日時および場所を筆界特定の申請人および関係人に通知して、これに立ち会う機会を与えなければならない。

【2項】

133条2項の規程は、前項の規程による通知について準用する。

この条文は、例えば、所在が判明しない関係人の土地への立ち入りが必要となる場合など、その通知方法は筆界特定申請があった際の通知方法を準用する旨の規程です。所在が判明しない関係人の土地(対象土地・関係土地)への立ち入り調査の通知は、インターネット上や法務局内の見やすい場所へ2週間掲示すれば、関係人らへの通知がなされたとみなされます。なお、立ち入りを理由なく拒んだり妨げたりした者は、30万円以下の罰金があります(法162)。

(5)意見聴取(法140)
(5)意見聴取(法140) (5)意見聴取(法140)

意見聴取は、決して密室で秘密裏に行われるものではありません。筆界特定登記官は、筆界申請があった旨の公告をしてから筆界特定をするまでの間に、申請人・関係人・参考人に対して、あらかじめ通知をして、筆界に関する意見を述べたり資料を提出したりする機会を与えなければならないと規程しています(法140条)。この、意見聴取をする場所については下記のように定められています。

<通達110による意見聴取の場>

  • ・法務局庁舎
  • ・対象土地を管轄する登記所の庁舎
  • ・現地などの適当な場所

傍聴を許される者(規則224条3項)

筆界特定登記官が適当と認める者であれば、意見聴取を傍聴することができます。

<通達114による、傍聴が適当な人物>

  • (1)申請人、関係人の親族や同居者
  • (2)上記の(1)以外の者で、その者が傍聴することについて、
  • 期日に出席した申請人や関係人が異議を述べなかった者

この期日での経緯は調書として残され、筆界特定までの間、申請人や関係人は閲覧することができます(※5)。

5 図におけるイ点の特定は、事実上、Hにも影響を与えます。そのHが、筆界特定の意見聴取の傍聴を筆界特定登記官に願い出たとしましょう。もし筆界特定登記官がHの傍聴を許可しようとしても、申請人や関係人が拒んだ場合、Hは傍聴できません。ここでも制度として、Hを冷遇しているように思えてなりません。

(6)筆界特定(法143)
(6)筆界特定(法143)

【通達129(境界標の設置)】筆界特定をしたときは、申請人および関係人に対し、永続性のある境界標を設置する意義およびその重要性について、適宜の方法により説明するものとする。

筆界特定後の境界杭の設置については、問題が起こりがちなようです。実際にこのサイトにいただくお問い合わせでも、境界杭の設置の話題は少なくありません。

「せっかく筆界特定手続きが完了して筆界特定書も交付されたのだから、当然その位置に境界杭を設置できるはず」という意見は頻繁に耳にします。しかし、境界標識の設置に関する規程は、法や令、規則にもありません。わずかに通達129にあるのみです。

通達129を読むと、「筆界特定後に、申請人および関係人に対して境界杭の設置の重要性を説明する」という意味に取れます。しかし、制度上、筆界特定後に、筆界特定登記官や筆界調査委員が申請人や関係人と話す機会はありません。そのため、通達129の文意は、「筆界特定登記官や筆界調査委員は、機会のあるごとに、申請人や関係人に対して境界杭の設置を説く」ということでしょう。

通達とは、公務員のマニュアルであって、国民を拘束しません。つまり、筆界特定登記官や筆界調査委員が一生懸命に境界杭の設置を促しても、申請人や関係人が拒否すれば境界標識の設置ができないのです。また、筆界特定の立ち入り調査を拒めば罰則規定(法162条)がありますが、筆界特定制度の境界標識の設置に関する罰則規定はありません。

筆界特定が行われたら

申請人には「交付」、関係人には「通知」、世の中には「公告」

筆界特定登記官が筆界を特定したときは、申請人に筆界特定書の写しを交付します(法144条)。公告と通知については、筆界特定申請時の規程が適用されます。関係人(BCDE)には、特定された旨の通知および境界特定図面の写しが郵便などで交付され、インターネット上や法務局内の見やすい場所に2週間公告されます(規則232条)。関係人は、図面が同封されているので、筆界位置の把握は可能です。しかし、なぜその位置に特定されたのかという理由を知るには、筆界特定書を閲覧しなければなりません。その閲覧の申請は、筆界特定登記官室ではなく、筆界特定が行われた地域を管轄する法務局出張所です。

筆界特定が行われたら
業歴23余年の豊富な知識から、専門的なお問い合わせにも対応します。

業歴23余年の豊富な知識から、専門的なお問い合わせにも対応します。

このように、研究者ではないのに、専門性のあるページを作成・公開することにはためらいもありました。あくまでも一調査士としての意見ではありますが、ご参考になれば幸いです。もし、このページをご覧になっても疑問点がございましたら、お気軽にご質問ください。私がこれまでに培った知識とノウハウの範囲でお答えいたします。